2015年5月9日土曜日

GCCS2015レポート(その2)

GCCS2日目は朝からテーマごとのセッションが開かれました。私が参加したのは、異なるセクターや国家間の連携に関するセッションです。

最初のセッションは、今回初めてという、軍と民間連携に関するものです。



軍、というと戦争や国際紛争が頭に浮かびます。攻撃力、防衛力、そしてこれらを背景にした牽制つまり抑止力といったものが柱になりますが、サイバースペースではそれほど単純ではありません。サイバー戦争という言葉がメディアなどで多用されますが、まだその定義すら議論の段階です。軍におけるサイバー能力は、通常は、軍のITインフラの防衛にフォーカスしたものです。他の分野、たとえばサイバー犯罪同様にサイバーは現実の問題の一部に過ぎません。多くの場合、サイバー攻撃を受けるのは、現実に紛争が起きている場合です。そうした状況下において、軍のインフラを狙ったサイバー攻撃は先手必勝です。攻撃力もさることながら、防御が甘いと現実の武力のインフラを破壊されてしまいます。一方、有事のサイバー攻撃は、軍を狙ったものだけとは限りません。戦略的には軍を直接相手にするよりも、相手の社会を混乱させた方が効果が大きいかもしれません。しかし、こうした民間への攻撃を軍が防御できるかといえば、それは困難です。サイバー攻撃はごく少数が多くを相手に出来るという非対称性を持っています。守る側は攻める側に対して遙かに多くのリソースを必要とします。従って、とりわけ民間がある程度自己防衛できないと、大きな被害が出てしまうことになります。このことが、軍と民間の連携というテーマの背景にあります。しかし、こうした民間との関係では、警察やその他の政府機関との棲み分け、連携も不可欠です。平時においては、民間連携はこれら、他の機関が主体となりますから、そこにいきなり軍が出て行ってもうまくまわりません。平時から、こうしたスキームを作っておく必要があるわけです。一方、平時における国防産業のサイバー防衛をサポートするのは軍の仕事のひとつかもしれません。我が国のように、「軍」がなく、「専守防衛」の国においては、平時のスキーム作りがより重要になるでしょう。攻撃力という意味合いでは、最近「サイバー部隊」設立の動きが激しくなっています。実際にサイバー攻撃を軍が主導しているといった懸念もあり、こうしたサイバーフォースについての透明性確保と国際的な信頼醸成の枠組みも、偶発的な衝突を防ぐために必要になります。こうした議論を聞いた限り、まだまだ課題は多そうです。今回をきっかけに、今後のGCCSでは、このテーマで議論を続けていくことになるとのことでした。


2つめのセッションは、サイバー犯罪に対応するための警察の国際連携に関するセッションです。


簡単に国境を越えてしまうサイバー犯罪への対応では、国際連携が必須ですが、通常の外交ルートには様々な政治的問題が横たわっています。しかし、犯罪への対応においては、時間の余裕があまりありません。従って、一般的な政治問題に対して中立的な捜査機関同士の国際連携の枠組みが必要になります。このセッションのパネリストは、インターポール、ユーロポール、アメリポールといった、こうした警察間の連携組織の代表と、いくつかの国の警察の代表でした。ユーロポールからは、最近の銀行不正送金事案への欧州各国の連携事例などが紹介され、インターポールからは、昨年シンガポールで本格稼働しはじめたIGCI (INTERPOLE Global Complex for Innovation)のトップである中谷昇氏が登壇。サイバー捜査国際連携におけるIGCIの役割、最近のボットネット対応(takedown)事例や、カナダ出資による基金をベースとした新興国のサイバー対応能力強化支援の取り組みなどについて説明されました。参加者からは、こうした連携の枠組みを捜査機関だけでなく、各国のCERT組織や民間のサイバー情報共有のための組織も含めた形で拡大していくべきといった声も聞かれました。とりわけ、平時においてサイバー犯罪対策(防犯を含む)の要となる警察組織が、幅広い民間連携を進めることが重要と思われ、そのためには各国の政府が主導して関係組織や民間を含めた枠組みを作っていくべきだろうと思います。

         ICPOIGCI中谷氏

さて、そんな感じで一日半の短い国際会議は閉幕。当然この期間ですべての問題を話すことは困難ですし、まして結論を出すなどは無理。ただ、こうした課題を各国の政府、民間が一堂に会して共有することはとても重要だろうと思った次第です。

最後にオランダ外相がクロージングのスピーチで、「まだまだ問題山積みだが、今回の議論で我々はまた一歩階段を上った」(意訳)と述べたのが印象的でした。


次回のGCCSは、2017年にメキシコで開催されることが決まっています。今回、こうしたイベントに参加する機会を得たことは非常に有意義でした。可能ならば次回も参加できればと思います。

0 件のコメント:

コメントを投稿